最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)227号 判決 1969年12月23日
当事者 上告人 今西幸五郎
右訴訟代理人弁護士 山本敏雄
被上告人 勝真茂信
右訴訟代理人弁護士 太田隆徳
主文
原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人山本敏雄の上告理由第一点について。
原審は、本件土地上にある二階建アパートは、被上告人(控訴人)がこれを買い受けた昭和二八年一〇月以後、階下の道路に面する部分は順次店舗ならびにその付属居住用として他に賃貸され、昭和三五年二月当時、右アパートのうち原判決別紙図面第二の(a)とある部分三七坪五合六勺(一二四・一六平方メートル)については、地代家賃統制令の適用が除外されていた旨を認定しながら、結論として、昭和三五年二月二三日上告人(被控訴人)が被上告人(控訴人)に本件地代の値上げの申入れをした当時、本件土地のうち右アパートの前記(a)部分および同図面に(b)と表示されている部分一八坪九合(六二・四七平方メートル)の合計五六坪四合六勺(一八六・六四平方メートル)に相当する部分の敷地についてのみ地代家賃統制令の適用がなく、その余の部分については、なお同令の適用があるものとし、前者については同令の統制と関係なく相当賃料額を算定し、後者については同令による統制賃料を算定したうえ、その合算額をこえる上告人の請求を排斥しているのである。
しかしながら、地代家賃統制令二三条二項によれば、延べ面積が九九平方メートルをこえる建物(当該建物の延べ面積から賃借部分の床面積または賃借部分の床面積の合計を差引いた部分の床面積が九九平方メートル以下である建物を除く。)およびその敷地については、同令の適用が除外されているのであり、前記認定事実によれば、本件アパートは、右(a)、(b)部分を別個独立の建物とみないかぎり、右にいう適用除外建物に該当することは明らかであるから、その敷地である本件土地も、すべて同令の適用から除外されるものといわなければならない。しかるに、原審は、なんら特段の理由を示すことなく、本件土地のうち、前記(a)、(b)部分の敷地に該当する部分の地代についてのみ同令の適用がなく、その余の部分にはなお同令の適用があるものと判示しているのであって、右判断は、同令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。したがって、論旨はこの点において理由があり、この誤りは原判決の結論に影響することが明らかであるから、原判決は、その余の点について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、本件は、さらに右の点について審理する必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よって、民訴法四〇七条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)
上告代理人山本敏雄の上告理由
第一点法令適用の誤り
原判決には、地代家賃統制令(以下、単に、統制令という)第二三条第二項の解釈適用を誤りたる違法があり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。即ち、
(1) 原判決は、本件土地の地代を算出するにつき、その地上建物である「松屋ハウス(以下、本件建物という)」の構造を分析し、且つ、その使用状況に照らして、その階下部分が、店舗部分と居住用部分とに分れていることに着目して、店舗部分(=建物としての統制除外部分)の敷地と居住用部分(=建物としての統制令適用部分)の敷地とに本件土地を分断し、前者の土地部分は統制除外であるが、後者の土地部分は統制令の適用があると判断した上で、夫々の土地部分についての地代を算出し、これを合算することによって、本件土地全部の一ヶ月当りの地代総額を認定している。
(2) 然しながら、統制令は、
<1>土地の賃借人が賃借地上に二階建以上の建物を所有し、その建物の一部を居住用に、他の部分を店舗用に賃貸している場合、その建物の「階下部分」の賃貸借状況を基礎として、階下部分を統制除外部分と統制部分とに区別し、その建物部分の敷地部分を、これに対応して、統制除外部分と統制部分とに区分すること
<2>土地の地代は右区分による地代額の合算とすること
<3>建物の周囲に存する若干の空地については、すべて「統制適用」とすること
などは、何等、規定していないのである。
(3) 本件建物は原判決も認定する通り、二階建建物であり、居住用部分もあれば、店舗部分もある。然して、その延面積は勿論のこと、延面積から賃借部分の床面積の合計を差引いた部分の床面積も、三〇坪(九九平方メートル)を超えるのであって、まさに、統制令第二三条第二項第三号により、本件土地地代については、統制令の適用が除外されるのである。
(4) 原判決は、事此処に想いを至さず、建物の階下部分の建物としての賃料に関する統制令適用の有無を基準として、当該建物部分の敷地部分を統制令適用部分とそうでない部分とに区分するという恣意的な操作を敢てなしているのであって、統制令の解釈・適用を誤っていることは明白である。<以下省略>